深夜、ふと思い立って昔のデータを探していたら、12年前——2014年2月に山本学習塾が多気町で新聞折込として2週連続で配布した「前編・後編」のチラシデータと、それに連動する6本のYouTube動画を発掘した。
当時は上の子がまだ1歳で、昼夜を問わず夫婦で育児と授業に追われ、記憶が曖昧になるほどバタバタしていた時期である。しかし、残されていたマスターデータを見返すと、私たちが現在「次世代エンジニアリング・ラボ」で実装しているシステムの原型が、すでにこの時点で寸分違わず稼働していたことに気づかされる。
01. 有名YouTuberすら駆け出しで、iPhoneがQRコードを読めなかった時代
2020年のコロナ禍以降、あるいは近年のAI・DXブームに乗って、「デジタル教材」や「映像配信」を謳う教育機関は一気に増えた。しかし、私たちが紙の媒体にQRコードを刻印し、自前のYouTube解説動画へと接続するクロスメディア導線を多気町で実装したのは、それより6年も前の2014年2月である。
2014年2月がいかに早い時期だったかは、当時のテクノロジー環境とYouTube界隈の時代背景を振り返るとよくわかる。
- PROTOCOL 01 // QRコード専用の読み取りアプリが必須だった時代
- iPhoneの標準カメラにQRコードスキャン機能が実装されたのは2017年9月(iOS 11)である。2014年当時は、わざわざ専用のリーダーアプリを起動してかざさなければリンク先に飛べない時代だった。モバイル通信環境も4G(LTE)の厳しい月間データ容量制限(いわゆる7GB制限)が常に意識されていた。
- PROTOCOL 02 // トップYouTuberすら駆け出しだった「黎明期」
- 2014年2月といえば、HIKAKIN氏らが所属するUUUMが設立された直後で、世間にYouTuberという存在を知らしめたテレビCM「好きなことで、生きていく」すらまだ放映されていない(2014年10月開始)。はじめしゃちょーやFischer’s(フィッシャーズ)、東海オンエアといった現在誰もが知るクリエイターたちがまだ駆け出しとして活動を広げ始めたばかりの時期であり、ヨビノリたくみ氏やStardy(河野玄斗氏)などの本格的な教育系YouTuber(EduTuber)が台頭する2017〜2019年よりもさらに3〜5年前である。
- PROTOCOL 03 // チラシを「捨てられない教材」に変えるアーキテクチャ
- 通常の塾チラシは料金や時間割を一瞥されて数秒で資源ゴミになる。しかし紙面の上半分を「問題です。」の5文字だけで占拠し、あえて答えを載せず「解説はWEBで!」とQRコードへ誘導することで、チラシそのものを家庭のリビングに残る「思考のフック」へと変換した。
当時、YouTubeといえば「一部の若いクリエイターが面白い実験やゲーム実況を上げる場所」という認識が主流で、地方の学習塾がチラシのQRコードと連動させて授業解説を展開するなど、誰も想像すらしていなかった。「やっていることが早すぎて周囲に理解されない」というのは新しい仕組みを現場に実装する際によくあることだが、当時のYouTubeのアクセスログを見ると、小学低学年・算数の動画は860回以上、中学2年・数学も570回以上再生されている。専用アプリを立ち上げてでも、多気町の多くの保護者や子どもたちが画面の向こうの解説に引き込まれていたという確かな記録が残っていた。
02. 前編・後編の2週連続マトリクスと「丸暗記させない」問題設計
今回発掘した「前編(2014年2月9日号)」と「後編(2014年2月16日号)」の2枚のマスターデータ(この大胆なタイポグラフィと紙面レイアウトは、当時からすべて副塾長・山本貴子の手によるものだ)を並べると、2週間で主要教科を横断する緻密なマトリクス設計になっていることがわかる。


前編では「小学生:算数 / 中学生:英語」、翌週の後編ではそれを反転させて「小学生:国語(語彙・漢字) / 中学生:数学」を出題し、さらに右下の無料体験スケジュールも1週間の経過に合わせて終了したコマを消し、単元ピンポイントの案内へとリアルタイムに更新している。掲載されている問題のラインナップには、私たちが当時から「公式や文法の丸暗記」をいかに嫌っていたかが如実に表れている。
03. 【12年前の完全再現】「問題です。」全6問とYouTube解説動画
当時、1歳の上の子が寝静まった隙を縫って、教室のホワイトボードの前で夫婦交互にカメラを回して撮影した6本の解説動画(前編の算数・英語4本は副塾長、後編の中学数学2本は私)は、現在もYouTube上にそのまま残っている。12年前のチラシに掲載した問題文と図形、そしてQRコードの先にあった解説動画をここに完全再現する(なお、後編の小学生国語2問「すっかり/際限・再現」はWebテキストでの解答提示だったため、動画連動の全6問を掲載する)。ぜひ頭の中で解いてから動画を再生してみてほしい。
- QUESTION 01 // 【前編・小学低学年】算数(逆算の思考構造)
- しょうた、けんじ、ゆうとの3人がくりひろいをしています。3人でひろったくりをあとでわけてもってかえります。しょうたが10こ、けんじが7こひろいました。ゆうとが何こひろうと、1人8こずつもってかえることができますか。
- QUESTION 02 // 【前編・小学高学年】算数(天秤と代数的思考)
- A、B、C3種類のボールがあります。これらを図のようにてんびんにのせて、てんびんがつりあうようにします。
ボールA、B、Cののせ方は全部で何通りですか。ただし、使わないボールがあってもよいとします。
- QUESTION 03 // 【前編・中学1年】英語(文構造と代名詞の格変化)
- 次の文の下線部を1語の代名詞にかえて、全文を書きなさい。
Tom, Jenny and I know Mr.Brown’s daughters.
- QUESTION 04 // 【前編・中学2年】英語(不定詞と動名詞の時間軸ベクトル)
- 次の組の英文を、意味のちがいに注意して日本文で表しなさい。
① My mother forgot to send a postcard to her friend.
② My mother forgot sending a postcard to her friend.
- QUESTION 05 // 【後編・中学1年】数学(図形の回転移動とおうぎ形の周・面積)
- 下の図のように、直角三角形ABCが、直線\ellと辺BCが重なるようにおかれている。この三角形を、頂点Cを中心として矢印の方向に辺ACが直線\ellに重なるまで回転させるとき、辺BCがえがく図形の周の長さと面積を求めなさい。
- QUESTION 06 // 【後編・中学2年】数学(池の周りを回る連立方程式)
- 周囲の長さが4kmの池がある。この池の周囲をAさん、Bさんの2人が自転車で、同時に同じ場所を出発して、反対の方向にまわると10分で出会い、同じ方向にまわると40分でAさんがBさんをちょうど1周追いぬくという。Aさんがこの池を1周するのに何分かかりますか。
04. 12年間の社会・経済の激変と、私たちが辿り着いた現在地
このチラシを撒いた2014年2月から現在(2026年)までの12年間を振り返ると、日本社会と経済、そして子どもたちを取り巻く教育環境は文字通り激変した。
- SHIFT 01 // 2014年の経済環境から、インフレと産業構造転換の時代へ
- 2014年2月といえば、4月に消費税が5%から8%へ引き上げられる直前の駆け込み需要に沸いていた時期であり、日経平均株価はまだ1万4,000円〜1万5,000円台、デフレ脱却を掲げたアベノミクス初期の時代だった。そこから12年を経て、物価高や円安、少子化の加速とともに、「既存のレールに乗って定型業務をこなせば安泰」という終身雇用型の経済モデルは完全に過去のものとなった。
- SHIFT 02 // コロナ禍とGIGAスクール構想による「デジタルの日常化」
- 2014年当時は「なぜ紙のチラシに動画のQRコードが?」と珍しがられた仕組みも、2020年のコロナ禍による一斉休校とオンライン化(当時の対応記録は「学びを止めない『オンライン授業』全5部作の記録」参照)、小中学校への1人1台端末配備(GIGAスクール構想)、さらにはキャッシュレス決済の普及によって、QRコードとデジタル動画は社会インフラとして完全に日常化した。
- SHIFT 03 // 生成AIの台頭と「丸暗記型教育」の終焉
- そして最大の地殻変動が、2020年代中盤からの生成AI(LLM)の爆発的普及と、大学入試(共通テスト)における「思考力・情報処理重視」への転換である。検索やAIを使えば「定型問題の解法」が一瞬で出力される時代において、公式を丸暗記してパターン通りに当てはめるだけの学習は、経済的にも知的にも価値を失った。
つまり、私たちが12年前のチラシで問いかけた「なぜその式になるのか(物理的前提と幾何の図解)」「なぜその言葉を選ぶのか(構文と時間軸の解像度)」という本質的な構造理解と、アナログとデジタルを自在に結合・制御するエンジニアリングの視点こそが、AI時代を生き抜く子どもたちにとって唯一の武器になったのである。
アイディアと論理構造を私が設計し、副塾長がそれを温かみのある紙面デザインと言葉の解説へとパッケージングする。2014年の「紙(チラシ)× QRコード × デジタル動画」という小さな実験は、この12年間の社会変化と並走しながら、現在ラボで稼働している「テキスト教材 × QRコードスキャナー × UbuntuローカルDBサーバー(LAB DECK)」、そしてPythonやロボット実機(DOBOT / zSpace / SPIKE Prime)を用いて数理を物理空間で検証する「次世代エンジニアリング・ラボ」へと進化した。
借り物のシステムや一過性のブームではなく、12年前から自分たちの手で仕組みを作り、カメラを回し、現場の課題を技術でハックし続けてきたこと。揃って発掘された「前編・後編」2枚のチラシデータと6本の動画は、私たちの現在地と12年間の一貫した哲学を静かに証明してくれるタイムカプセルである。
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ARCHIVE & ARCHITECTURE // ENGINEERING & ROBOTICS LAB
12年前の「紙×QRコード」から進化した、独自の学習管制システム『LAB DECK』。
2014年の小さな実験から12年を経て、現在のラボではQRコードとローカルUbuntuサーバーを連動させた独自の学習・出席管制システム『LAB DECK』が稼働しています。私たちが一貫して追求してきたシステムの詳細や、推薦図書・映画データベースについては以下よりご覧ください。
