SF映画『パッセンジャー』とアドラー心理学|「他者からの承認」という依存を脱し、「いま、ここ」を自らの手で設計する勇気

クラウドとストリーミング技術の発展により、スマートフォンやタブレット、テレビといった複数のデバイス間で視聴データをリアルタイムに引き継ぎ、わずかな隙間時間で映画やドキュメンタリーに触れられる環境が当たり前になりました。

今回は、そうした中で鑑賞したSF映画『パッセンジャー(Passengers)』(モルテン・ティルドゥム監督)を取り上げます。

「乗客5,000人 目的地まで120年 90年も早く 2人だけが目覚めた 理由は1つ——。」
宇宙移民を乗せてスペースコロニー「ホームステッドII」へと航行する宇宙船アヴァロン号を舞台に、実質的な登場人物はわずか4人(うち1人はアンドロイド、残りの乗客は全員人工冬眠中)という極めてシンプルでミニマルな構造のSF作品です。賛否が分かれる映画でもありますが、この物語を「アドラー心理学」の視座から解剖すると、現代を生きる私たちにとって極めて重要な「自立と幸福の構造」が浮かび上がってきます。

01. 承認欲求という名の「地球からの逃避」

映画の前半で非常に印象的なのが、主人公の技術者であるジムと、作家のオーロラが「なぜ地球を離れ、片道120年もかかるスペースコロニーへの移住を決断したのか?」という動機が語られるシーンです。

オーロラから移住の理由を問われた際、機械エンジニアであるジムはこう答えます。

地球では壊れたものは即交換 コロニーでは修理が必要だ
俺の専門だ
技術者が必要とされる 新しい世界
俺の家を建てる 希望に満ちた広大な大地に

モルテン・ティルドゥム監督『パッセンジャー』(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 2017年)

ブラックボックス化された製品をただ消費し、壊れれば即座に交換する地球の社会では、自分の技術(エンジニアリング)が必要とされていない——だからこそ、自分が「必要とされる場所」へ行ってやり直そうと考えたのです。

また、作家であるオーロラが地球の親友からのビデオレターを見ているシーンでは、次のような言葉が投げかけられます。

ここにいてもあなたは 満足できないのね
地球でチャレンジしてほしかった でも行っちゃうのよね
いつも願ってる あなたの心を満たす人と出会ったら 受け入れてあげて
偉業を達成しなくても幸せになれる

モルテン・ティルドゥム監督『パッセンジャー』(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 2017年)

オーロラもまた、「まだ誰も成し遂げていない偉業を達成することで他者に認められたい、そうすることで初めて幸せになれる」と思い込んでいたに違いありません。しかし、果たして「他者から認められること」で、人間は本当に幸せになれるのでしょうか?

02. アドラー心理学が否定する「他者承認への依存」

アドラー心理学は、この「他者から認められたいという欲求(承認欲求)」を明確に否定しています。そしてこの映画もまた、同じようにそれを否定し、「では、どうすれば人は本当の意味で自立し、幸せになれるのか」を描こうとしていたのではないでしょうか。

ほめられることでしか幸せを実感できない人は、人生の最後の瞬間まで「もっとほめられること」を求めます。その人は「依存」の地位に置かれたまま、永遠に求め続ける生を、永遠に満たされることのない生を送ることになるのです。
他者からの承認を求めるのではなく、自らの意思で、自らの承認をするしかないでしょう。
「わたし」の価値を、他者に決めてもらうこと。それは依存です。一方、「わたし」の価値を、自らが決定すること。これを「自立」と呼びます。幸福な生がどちらの先にあるか、答えは明らかでしょう。あなたの価値を決めるのは、ほかの誰かではないのです。

岸見一郎・古賀史健『幸せになる勇気』(ダイヤモンド社 2016年)pp.152
DEPENDENCE // 依存の構造(他者による価値決定)
「誰かに褒められること」「社会から特別に認められること」でしか自分の価値を実感できない状態。評価の主導権が常に他者にあるため、永遠に満たされることがない。
INDEPENDENCE // 自立の構造(自己による価値決定と貢献)
「わたしの価値は、わたし自身が決定する」という自律の状態。他者の評価に振り回されず、自らの意思で目の前の課題と他者に向き合うことで初めて到達できる。

他者に承認してもらうことでは幸せになれない。では、自己中心性(承認への執着)から解放され、本当の自立と幸福にたどり着くにはどうすればよいのか?同書はその答えを次のように述べています。

愛だけです。「楽をしたい」「楽になりたい」で生きている人は、つかの間の快楽を得ることはあっても、ほんとうの幸せをつかむことはできません。われわれは他者を愛することによってのみ、自己中心性から解放されます。他者を愛することによってのみ、自立を成しえます。そして他者を愛することによってのみ、共同体感覚にたどりつくのです。

岸見一郎・古賀史健『幸せになる勇気』(ダイヤモンド社 2016年)pp.272

03. 「いま、ここ」を自らの手で築き上げる決断

物語の終盤、宇宙船の致命的なシステムトラブルを2人で力を合わせて乗り越えたジムとオーロラは、再び冬眠ポッドへ戻ることをせず、航行中の宇宙船の中で2人の残りの人生を全うする決断をします。

「90年後のうすぼんやりとした未来の新天地(そこに行けば誰かが認めてくれるはずの場所)」ではなく、誰も見ていなくとも、「いま、ここ」という瞬間を、自らの技術と愛によって全力で生きることを選んだのです。

人生における最大の嘘、それは「いま、ここ」を生きないこと

岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社 2013年)pp.275

「いま、ここ」を真剣に生きること、そして他者を愛し貢献することに気づけた2人は、自らの手で自分たちの運命を築き上げ、スペースコロニーに到着した他のどの乗客よりも確かな幸せを掴んだと言えるのではないでしょうか。

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