「才能がある」「才能がない」「天才だ!」——こうした言葉は日常的に耳にしますよね。でも同時に、「天才も磨かなければただの人」なんてことも聞きます。
これは一体どういうことなのか?! これを研究して、定量的に証明した人がいます。
01. GRIT(グリット)の提唱者とはどんな人?
今回紹介する本は『GRIT(グリット)―やり抜く力』ですが、その筆者アンジェラ・ダックワースさんは、研究者になるまでの経歴が面白い人です。
ハーバード大学で神経生物学を専攻し、オックスフォード大学で神経科学の修士号を取得。マッキンゼーの経営コンサルタント職を経て、公立中学校の数学の教員となる。その後ペンシルバニア大学大学院で心理学の博士号を取得。子どもの性格形成に関する科学と実践の発展を使命とするNPO「性格研究所」の創設者・科学部長でもある。
アンジェラ・ダックワース『GRIT―やり抜く力』(ダイヤモンド社、2016年)より
大学を出て民間に就職、その後公務員(教員)となる、まではあることだと思いますが、また大学院に入って今度は博士号を取ってNPOって……それこそやりたいことを「やり抜い」たのでしょうね。結果、研究の成果もあってマッカーサー賞(別名「天才賞」)をもらい、幅広い分野のリーダーたちから「やり抜く力」の助言を求められ、講演を行っている。そして二人の娘さんがいて子育てもしている。いや〜、すごいことだと思います。
そのアンジェラさんは教員をしているときに、「子どもたちの最終的な成績は何で決まるか」を考えていました。
才能のある子は呑み込みが速く、もちろん成績の良い子もいたが悪い生徒もいた。逆に最初はなかなか理解できず苦労していた子の中には予想以上に良い成績を取った生徒が何人もいて驚かされた。
アンジェラ・ダックワース『GRIT―やり抜く力』より
数年間の教師生活のなかで、ますます才能によって運命が決まるとは思わなくなり、努力のもたらす成果に強い興味を抱くようになった。その謎を徹底的に探るため、ついに教師を辞めて心理学者になった。
なるほど〜! 自分の中で生じた疑問を追究すべく、心理学を志したというわけなんですね〜。そしてまとめた研究論文が「グリット」であり、その後10年以上を経て「達成の方程式」を解明しました。さて、では「グリット」について説明しましょう。
02. 「グリット(やり抜く力)」を測る10の指標(グリット・スケール)
グリットとは、簡単に言うと「やり抜く力」です。それを計るための具体的な項目(グリット・スケール)が以下の10個です。
- 新しいアイデアやプロジェクトが出てくると、ついそちらに気を取られてしまう。
- 私は挫折をしてもめげない。簡単にはあきらめない。
- 目標を設定しても、すぐべつの目標に乗り換えることが多い。
- 私は努力家だ。
- 達成まで何カ月もかかることに、ずっと集中して取り組むことがなかなかできない。
- いちど始めたことは、必ずやり遂げる。
- 興味の対象が毎年のように変わる。
- 私は勤勉だ。絶対にあきらめない。
- アイデアやプロジェクトに夢中になっても、すぐに興味を失ってしまったことがある。
- 重要な課題を克服するために、挫折を乗り越えた経験がある。
- SCORING 01 // 奇数の項目(1・3・5・7・9番)=「情熱」のスコア
- 非常に当てはまる場合は「1点」、まったく当てはまらない場合は「5点」となります。5項目の得点を合計して5で割ると「情熱」のスコアが出ます。
- SCORING 02 // 偶数の項目(2・4・6・8・10番)=「粘り強さ」のスコア
- 非常に当てはまる場合は「5点」、まったく当てはまらない場合は「1点」となります。5項目の得点を合計して5で割ると「粘り強さ」のスコアが出ます。そして全10項目の合計を10で割ると、総合の「グリット・スコア」が出ます。
あなたはどう出ますか? 全体のスコアはどのくらいになりましたか?

アンジェラさんの研究結果からすると、ほとんどの人が「粘り強さ」のほうが「情熱」より高く出るそうです。
私はというと……両方とも4.4、つまりスコア自体も「4.4」と出ました。アメリカ人の成人の80%よりも「やり抜く力」が強いことになりますが、まったく実感がありません……(笑)。答えはできるだけ見たくない、ただの負けず嫌いとしか認識していないのですが……(^-^;。
このグリット・スコア、パッと出されると簡単に計れてしまいますが、計れるようになるまでにはものすごく長い時間と労力がありました。対象は人ですから、数を集めて統計を取らないと資料として信ぴょう性をもたないものになってしまいます。ではどういう経緯でこのグリット・スコアが生まれたのか、本書をたどってみます。
03. どんな人なら過酷な訓練を耐え抜けるのか?
アンジェラさんは博士課程の2年目に、アメリカ陸軍士官学校(ウェストポイント)の入学者1,200名を対象に研究を始めました。
【CASE STUDY // ウェストポイント(アメリカ陸軍士官学校)の謎】
ウェストポイントへの入学は、毎年全米の14,000名以上もの高校2年生が志願するのだが、推薦状や学力・体力の厳格な審査基準をクリアし、最終的に入学を許可されるのは1,200名。その生徒たちは高校の成績も抜群に優秀で、例外なく各校を代表するスポーツ選手であり、大半はチームのキャプテンを務めている。
しかし卒業までの4年間のうちに5人に1人は中退してしまい、その大半は夏の入学直後に行われる「7週間の基礎訓練」に耐えられず辞めてしまうという。
そこで疑問が生じた。『入学を目指して2年間も必死に努力を重ねてきたのに、最初の2カ月で辞めてしまうとは、どういうことなのだろうか?』
陸軍は1955年から数十年にもわたって何人もの心理学者を呼んで研究してきたが、なぜ最も有望な士官候補生に限って訓練が始まったとたんに辞めてしまうのか、その理由を確実に突きとめた者はいなかった。
アンジェラさんは成功者の特徴を調べるために、業界でも屈指のビジネスパーソンやアーティスト、アスリート、ジャーナリスト、学者、医師、弁護士などを対象にインタビューを行いました。結果わかったのは、彼らに共通するものが「やり抜く力が強い」ということ。それを定量的に測定できないものかと話の中の言葉をまとめていき、グリット・スケールを完成させました。
ウェストポイントで実際にこのテストをしてみたところ、訓練を耐え抜いた者たちは、グリット・スコアの数値が総じて高いことがわかりました。同時に、入学審査で出した「志願者総合評価スコア(学力・体力・軍隊への適性)」とは、何の関係も見られなかったこともわかりました。
さらにアンジェラさんは、さまざまな集団を対象に調査を重ねていきます。
- 営業職の定着率調査:あるリゾート会員権販売会社で営業職の数百名にテストを実施。半年後には55%が辞めていたが、グリット・スコアの高かった人は辞めずに残っていた。
- 高校生の卒業率・学歴・特殊部隊の調査:数千名の高校2年生を追跡したところ、約1年後に中退していた12%の生徒よりも無事に卒業した生徒のほうが「やり抜く力」が強かった。さらに「アメリカ人を対象とした2つの大規模調査」では高学歴になるほどスコアが高くなり、「アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレー」でも訓練を耐え抜いた者はスコアが高かった。
- 知能指数・SATスコアとの比較:英単語のスペルの正確さを競う大会「スペリング・ビー」決勝出場者約200名の調査では、「言語知能指数」と「やり抜く力」に相関関係はまったく見られず、アイビーリーグの名門大学生の調査では、SAT(国語と数学のテスト)のスコアが高い学生ほど「やり抜く力」が弱かった。
これらの結果から、「才能があっても、その才能を生かせるかどうかは別の問題だ」という洞察が得られました。
いや〜、それにしてもものすごい量のデータですね。「アンケート項目数×人数」でスコアを出して、さらにはその結果との照らし合わせと分析……気が遠くなるような話です。それでもアンジェラさんはやり続けました。
04. 「才能」では成功できない——なぜ人は天才を神格化するのか
では「才能」とは何か。本書では哲学者ニーチェの言葉を引用しています。
「我々の虚栄心や利己心によって、天才崇拝にはますます拍車がかかる。天才というのは神がかった存在だと思えば、それにくらべて引け目を感じる必要がないからだ。『あの人は超人的だ』というのは、『張り合っても仕方がない』という意味なのだ」
フリードリヒ・ニーチェ(『GRIT―やり抜く力』引用より)
これを受けて、アンジェラさんは「自分が『ラク』だから人を神格化する」と言います。
なるほど。そういうところ、ありますよね。何かにおいて優秀な人を目の当たりにすると、「うわっ、すごい! 自分には無理だわ。きっとあの人は天才なんだ」って思ってしまう。つまり、「才能」が「達成」に直結していると考えてしまいがちです。
ただ、冒頭でも言いましたが、「天才も磨かなければただの人」であるし、才能のある子でも学力が伸びない子もいるというのは、一体どう説明すればいいのか?
ニーチェは偉業を達成した人々のことを、なによりも「職人」と考えるべきだと訴えている。
アンジェラ・ダックワース『GRIT―やり抜く力』より
「天才だの、天賦の才だのと言って片付けないでほしい! 才能に恵まれていない人々も、偉大な達人になるのだから。達人たちは努力によって偉業を成し遂げ、(世間の言う)“天才”になったのだ。…彼らはみな、腕の立つ熟練工のごとき真剣さで、まずはひとつ一つの部品を正確に組み立てる技術を身につける。そのうえでようやく思い切って、最後には壮大なものを創りあげる。それ以前の段階にじっくりと時間をかけるのは、輝かしい完成の瞬間よりも、むしろ細部をおろそかにせず丁寧な仕事をすることに喜びを覚えるからだ」
05. 「才能」「努力」「スキル」「達成」はどう結びつくのか?
アンジェラさんは「達成の心理学」という観点から計算し、次の理論を打ち出します。
各人がどれだけのことを達成できるかは、「才能」と「努力」のふたつにかかっている。
アンジェラ・ダックワース『GRIT―やり抜く力』より
「スキル」は「努力」によって培われる。それと同時に、「スキル」は「努力」によって生産的になる。


そして導き出される結論が、「『2倍の才能』があっても、『1/2の努力』では負ける」という法則です。これを方程式にあてはめて考えてみましょう。
\begin{aligned} \text{① } &\text{才能} \times \text{努力} = \text{スキル} \\ \text{② } &\text{スキル} \times \text{努力} = \text{達成} \end{aligned}
- SIMULATION A // 「人の2倍の才能(2)」があり、「普通の努力(1)」をする人
- ・第1段階:「才能:2」×「努力:1」=「スキル:2」
・第2段階:「スキル:2」×「努力:1」=「達成:2」 - SIMULATION B // 「才能は普通(1)」だが、「2倍の努力(2)」を続ける人
- ・第1段階:「才能:1」×「努力:2」=「スキル:2」
・第2段階:「スキル:2」×「努力:2」=「達成:4」
なるほど!! 努力した人が成果を出して偉業をなす、ということになりますね!!
すばらしい理論です。「努力がものをいう」とはこういうことですね! 数値で示すことができるなんて、とてもわかりやすく、だれもが納得できるのではないでしょうか。
最後に、アンジェラさんの信念がうかがえる言葉を紹介させてもらいます。
例として創るものが壺や本や映画やコンサートでも、努力家のほうが、努力しない天才よりも大きな成果を上げる。
アンジェラ・ダックワース『GRIT―やり抜く力』より
努力をしなければ、たとえ才能があっても宝の持ち腐れ。
努力をしなければ、もっと上達するはずのスキルもそこで頭打ち。
努力によってはじめて才能はスキルになり、努力によってスキルが生かされ、さまざまなものを生み出すことができる。
本書では、この「やり抜く力」をどうしたら伸ばせるかを後半で提案しています。ぜひご一読ください。
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すぐに答えを見て分かった気になるのではなく、自らの頭と手を動かして試行錯誤を続ける「やり抜く力(GRIT)」こそが、学力とエンジニアリングの最大の推進力です。当ラボで学ぶ生徒たちの成長記録(CASE)や、推薦図書・映画データベースについては以下よりご覧ください。
