
我が家には、二十数年物のマグカップが存在します。側面にプリントされていたカバやゾウの絵も長い年月のなかで消えてなくなり、今残っているのは無数の細かい擦り傷だけ。これまで一体何杯、このマグカップでミルクやコーヒーを飲んできたのだろうかと、想像しただけでも気の遠くなる話です。
さて、先日妻から「今年で結婚20周年である」ことを告げられました。結婚20周年は「磁器婚式」と呼ぶそうです。磁器といえばマグカップ、マグカップといえばこの二十数年物のマグカップ……という具合に連想されるのですが、そろそろ替え時でもありますし、ペアのうち1つは割れてしまったこともあり、「今年中にいっちょ新調しますか?!」と話しているところです。
今回は、そんな長年愛用のマグカップを片手に読み進めた「最近の一押し書籍5冊」をピックアップして記録します。社会派小説・本格ミステリー・海外ディストピアSF・文芸・テクノロジー論とジャンルは多岐にわたりますが、その根底にはすべて「AIやデジタルが浸透する時代における『真実の見極め』と『人間にしか出せない熱量』」という共通のテーマが流れています。
01. 『歪んだ波紋』(塩田 武士 著)

- AUTHOR & AWARD // 著者・受賞歴
- 塩田 武士 著 / 第40回 吉川英治文学新人賞受賞作
新聞からテレビ、そしてネットへとニュースの媒体は変化し続けています。さらに近年ではAIの進化によって、より早く、かつ何の違和感もなく精巧に創り出された「大きな声」や「映像」が世の中に蔓延しています。
私たちは、この人工的に創造された情報の渦の中で「真実(ファクト)」を見極めることができるのでしょうか。「誤報」をテーマに、情報を発信する側も受け取る側も一歩間違えたときにどれほど取り返しのつかない事態を招くか、その構造的な怖さがリアルに描かれた社会派作品です。
02. 『屍人荘の殺人』(今村 昌弘 著)
- AUTHOR & AWARD // 著者・受賞歴
- 今村 昌弘 著 / 第27回 鮎川哲也賞受賞作(デビュー作)
私はミステリーというジャンルが好きで、おそらく今後もこの読書記録ではミステリー作品を数多く紹介することになると思います。本作は著者のデビュー作にして鮎川哲也賞を受賞した話題作です。
大学のミステリサークルのメンバーが事件を解決していくという王道の基本設定ですが、特筆すべきは殺人事件が起きる「環境設定(前提条件)」の斬新さにあります。本格ミステリーの殺人事件とパニックホラーが同時に発生するという異次元の状況下で、いかにして論理的に犯人を特定するか。すでにシリーズとして続編も刊行されているので、今後の展開も非常に楽しみです。

03. 『レジェンド 伝説の闘士ジューン&デイ』(マリー・ルー 著)

- AUTHOR & MOTIVATION // 著者・原書読解への動機
- マリー・ルー(Marie Lu)著 / 近未来ディストピア小説(全3部作の第1作)
近未来のディストピア社会を舞台にしたSF設定と、ティーンエイジャーの瑞々しい恋愛・葛藤が掛け合わさった、非常に疾走感のある小説でした。
実は本作は全3部作なのですが、残りの2作がまだ日本語に翻訳されていません。10年以上前の作品になるため、おそらく今後も邦訳版は出ないだろうと思います。しかし、どうしても続きが読みたい。……となると、解決策は1つしかありません。「英語でそのまま原書の小説が読めるようになれば良い」のです。どうする?英語やるか?と思わせてくれる一冊です。
04. 『ミス・サンシャイン』(吉田 修一 著)
- AUTHOR & AWARD // 著者・受賞歴
- 吉田 修一 著 / 第29回 島清恋愛文学賞受賞作
そもそも吉田修一氏の作品が好きで昔からよく読んでいるのですが、大作『国宝』が文庫化や映画化で大きな話題になっている陰で、この『ミス・サンシャイン』も非常に素晴らしい名作です。
ある大学院生が、かつて一世を風靡した伝説の映画女優の過去と人生に触れることで、自分自身も成長していくというストーリーですが、物語の途中にどうにも切ない場面があり、私には耐えきれず思わず涙してしまいました。

05. 『機械との競争』(E・ブリニョルフソン / A・マカフィー 著)

- AUTHOR & THEME // 著者・テーマ領域
- エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー 著 / テクノロジーと人間の役割
10年以上前に書かれた書籍で、「デジタル技術や機械の進化によって人間の仕事が奪われる」というテーマを扱っています。当然そうした側面はあるでしょうし、これからもAIの進化によって多くの定型業務や仕事が代替されていくことになるだろうと思います。
ただ、最近強く思うのは、「人間の織りなす技、そして『粋(いき)』のようなものは、決して機械には置き換えることができないのではないか」ということです。そこには、生身の人間だけが持つ鼓動や息遣いが空気を介して確かに伝わってきます。そして、その熱量こそが僕たちの心をつかんで離さないのだと思います。
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