廊下や床など、いたるところに垂直に積み上がっていた書籍群(いわゆる「積読」のタワー)を整理するため、新たに「第2本棚」を導入しました。すでにある第1本棚と全く同じ規格のものを並べたのですが、収納を開始してわずか1ヶ月で早くも満杯の状態となり、すでに「第3本棚」の増設を検討しなければならない状況です。
しかし、これまでタワーのように「点(あるいは線)」として積まれていた本が、本棚という二次元のグリッドに並んだことで、自分がどれだけの領域の知識と向き合おうとしていたのかが「面(構造)」として視覚的に理解できるようになり、非常に感慨深いものがあります。
今回は、この新しい本棚のセクションから、最近読み終えた「思考の枠組みを揺さぶる5冊の書籍」をピックアップして記録します。文学・歴史・ミステリー・自然科学とジャンルは異なりますが、その根底にはすべて「人間の思考プロセスと世界の構造」という共通のテーマが流れています。
01. 『ババヤガの夜』(王谷 晶 著)

- AUTHOR & AWARD // 著者・受賞歴
- 王谷 晶 著 / 2025年 英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳小説部門受賞
世界的なミステリー文学賞である「ダガー賞」を受賞し話題となったのでセレクトした一冊です。相反する性質を持つ二人の女性が、過酷な運命をともに駆け抜けていく物語ですが、特筆すべきはその「ストーリー構造上の大きな仕掛け」にあります。
本の絶妙なボリューム感といい、息をのむアクションシーンの連続といい、読者の前提(バイアス)を鮮やかに覆すエンターテインメントが最高のバランスで設計された作品でした。
02. 『雪の花』(吉村 昭 著)
- AUTHOR & THEME // 著者・テーマ領域
- 吉村 昭 著 / 歴史小説・幕末医療史(天然痘ワクチン普及の記録)
同著者の名作『羆嵐』とともに購入し、まずこちらから紐解きました。幕末の福井藩において、致死率の高い「天然痘」から人々を救うため、天然痘ワクチン(種痘)の普及に人生を捧げた町医者・笠原良策の物語です。
未知のワクチンに対する強い偏見や藩の妨害など、様々な障壁が描かれていますが、これは近年のパンデミック時の社会反応とも重なる部分が多く、「時代は違えど、人間社会は同じ構造を繰り返すのだな」と痛感させられます。歴史の教科書には大きく出てこなくとも、強い信念と合理的精神で社会の礎(インフラ)を築いた人物の生き様には強い憧れを感じます。

03. 『君のクイズ』(小川 哲 著)

- AUTHOR & THEME // 著者・テーマ領域
- 小川 哲 著 / 思考ミステリー・知識ネットワークの解剖
「クイズ番組の決勝戦で、なぜ対戦相手は問題文が1文字も読まれないうち(ゼロ文字)に正答できたのか?」という一点の謎を追う物語です。最初から最後まで、一見すると「どうでもよい雑学(うんちく)」が怒涛のように展開されていきます。
しかし、その雑学の断片の中に「自分と対戦者のこれまでの人生と記憶の構造」が瑞々しく描かれ、最後に「ゼロ文字正答」の論理的メカニズムが解けた瞬間、本格派ミステリーを読み終えた後のような鮮烈なカタルシスが訪れます。「知識が頭の中でどう繋がり、どう出力されるのか」を描いた、実に知的で不可思議な傑作です。
04. 『テスカトリポカ』(佐藤 究 著)
- AUTHOR & AWARD // 著者・受賞歴
- 佐藤 究 著 / 第165回直木賞・第34回山本周五郎賞 ダブル受賞作
『君のクイズ』の著者である小川哲氏がYouTubeで推薦していたことをきっかけに手に取り、その圧倒的な構成力に納得させられた作品です。
現代のグローバリズムを背景に、アステカ神話の宗教観、麻薬カルテル、臓器移植ビジネス、そして日本の日常に潜む児童虐待など、幾重もの巨大なテーマが重なり合いながら1つの大きな渦となって現れます。直木賞受賞も頷ける、現代社会の闇の構造を抉り出した圧巻の長編です。

05. 『チョウはなぜ飛ぶか』(日高 敏隆 著)★中高生必読リファレンス

- RECOMMENDED FOR STUDENTS // 自然科学・実験思考の名著
- 日高 敏隆 著(1975年初版 / 毎日出版文化賞受賞作)
中学1年生の冬休みの課題図書として挙がっていたものをきっかけに読んだ一冊です。1975年初版の本なので少し古い内容なのだろうという先入観があったのですが、結果はまったくの逆で、「これほどワクワクする科学の本が他にあるだろうか?」と衝撃を受けるほど面白い一冊でした。
「チョウはなぜ決まった道を飛ぶのか?」という問いに対し、研究の最終的な「結果」だけでなく、仮説を立てて実験し、見事に失敗して回り道をする「試行錯誤(デバッグ)の過程そのもの」が生き生きと書かれており、科学という行為自体の純粋な楽しさがダイレクトに伝わってきます。大人はもちろん、今まさに理科や数学を学んでいる中高生にこそ強く推薦したい名著です。
CULTURE & REFERENCE ARCHIVES // ENGINEERING & ROBOTICS LAB
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