子供たちが夢中になってプレイする「Nintendo Switch」などの現代のゲーム機。キャラクターや世界観の魅力もさることながら、エンジニアリングの視点で最も注目すべきはその「直観的な操作性(ユーザーインターフェース)」にあります。
コントローラーを傾け、振り、回転させることで、画面内のキャラクターや視点がリアルタイムに連動する——。私たちがかつて親しんだ「十字キーとボタンによる二次元的な入力」から、現代のデバイスは「三次元空間の物理的な動きそのものを入力とするシステム」へと劇的な進化を遂げています。
子供たちは説明書を読むこともなく、驚くべき順応性でこの空間制御を使いこなします。しかし、私たちが教育者として子供たちに投げかけたいのは、「ゲームがいかに面白いか」という消費者の視点ではなく、「このコントローラーの中で、一体どのような数学と物理が動いているのか?」という設計者(アーキテクト)の視点です。
01. インターフェースの裏側にある「数理と物理の融合」
コントローラーを傾けたときに画面が動く仕組みは、魔法ではなく純粋な「物理と数学(アルゴリズム)」の結晶です。
内部に搭載されたジャイロセンサー(角速度センサー)や加速度センサーが、重力方向や回転の微細な変化を数値データとして検知し、それを三角関数や空間ベクトル・座標変換によって画面上の動きへと瞬時に変換(コンパイル)しています。
当ラボのSTEM LABで導入している教育用ドローン「CoDrone EDU」や、三次元ARワークステーション「zSpace」も、根本にある原理はこれと全く同じです。「自分が普段遊んでいるゲームのコントローラーは、学校で習うベクトルや物理の力学そのものでできている」と気づいた瞬間、子供たちの中で机上の勉強と現実世界が鮮やかにリンクし始めます。
02. 任天堂のルーツ『横井軍平ゲーム館』にみる開発者の視座
こうした「遊びと物理的体感の融合」のルーツを探る上で、非常に示唆に富む一冊の書籍があります。『横井軍平ゲーム館』(筑摩書房)です。
横井軍平氏は、任天堂において「ウルトラハンド」や「光線銃」といった玩具から、「ゲーム&ウォッチ」「ゲームボーイ」、さらには1995年という時代に現在のVR(仮想現実)の先駆けとなる「バーチャルボーイ」までをも生み出した伝説的な開発者・設計者です。同書の中で語られている彼の設計哲学には、現代を生きる子供たちの学習においても極めて重要な本質が示されています。
03. 「枯れた技術の水平思考」と、難関大を突破する思考回路
横井軍平氏の代名詞とも言える開発哲学が、「枯れた技術の水平思考(Lateral Thinking with Withered Technology)」というフレーズです。
「枯れた技術」とは、決して時代遅れの役に立たない技術という意味ではありません。「すでに仕組みが完全に解明され、信頼性が確立された基礎技術(たとえば電卓の液晶技術など)」を指します。最先端のハイスペックな技術ばかりを垂直に追い求めるのではなく、「すでに手元にある確立された基礎技術を、全く別の角度(水平方向)から見直し、新しい組み合わせによって未知の価値を生み出す」という思考法です。
閉塞感を打開するには、誰かが外から見直すということが必要なんです。一つのグループで悩むんだったら、外の景色でも見たらということですね。
横井軍平・牧野武文『横井軍平ゲーム館』(筑摩書房 2015年)pp.202
人間はどうしても既成概念や先例にしばられてしまいますから、それを打破する勇気を若い人に持ってもらいたいと思います。
この言葉は、そのまま中学・高校における「学問のあり方」へと置き換えることができます。
- VERTICAL THINKING // 垂直思考の罠(解法パターンの丸暗記)
- 「この問題にはこの公式」「もっと難しい問題にはもっとマニアックな裏技公式」と、特定のパターンの中でしか通用しない知識を垂直に積み上げようとする勉強法です。既成概念(先例)に縛られているため、入試本番で少し出題の角度を変えられただけで思考停止に陥ります。
- LATERAL THINKING // 水平思考の実践(基礎概念の統合と構造設計)
- 難関大学の入試問題が本当に求めているのは、決して奇抜な先端知識ではありません。教科書にある「定義・定理」という、いわば『完全に確立された基礎技術(枯れた技術)』を本質から理解し、それらを単元や科目の枠を超えて水平に組み合わせ、初見の課題を突破する設計力です。
04. 既成概念を打破する「思考の実験場」として
人は誰しも、一度覚えたやり方や解法パターン(垂直的な思考)に縛られてしまいがちです。だからこそ、一度思考をニュートラルな状態に戻し、「そもそもこの現象の根本構造はどうなっているのか?」「別の分野の知識と繋げられないか?」と多角的に検証する習慣と環境が、成長期の子供たちには不可欠です。
日常の中で触れるゲームのコントローラーひとつとっても、ただ画面の刺激を「消費」するだけで終わらせるのか、それともその背後にある「水平思考の産物(システム設計の妙)」に触れ、自らの知的好奇心のトリガーにするのか。当ラボは、子供たちが日常のあらゆる現象の「裏側の仕組み」に目を向け、基礎学力とテクノロジーを自在に組み合わせて新しい解を創り出すための「思考の実験場」でありたいと考えています。
CORE ARCHITECTURE // THE TECH LAB
「消費者」から「設計者(アーキテクト)」へ進化する思考の設計図
当ラボが掲げる「4つの設計思想」と、6科目すべてに共通する「5つの思考回路(アルゴリズム)」の詳細については、指導理念ページをご覧ください。
